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出産育児一時金の増額について
令和4年12月に、政府は原則42万円支給していた出産育児一時金を50万円まで増額する方針を発表いたしました。さらに厚生労働省社会保障審議会でも改正案が了承されています。それに伴い令和5年度の国会へ改正法案が提出され、出産育児一時金の増額方向で最終調整に入っています。
今回の出産育児一時増額の背景には、令和3年の分娩費の全国平均が約46万3千円(個室料や産科医療保証制度掛け金は除く)となり、一時金では分娩費を上回り患者様負担が大きくなっていること、令和5年4月から「こども家庭庁」を発足することなどを考慮していると考えられます。今回は、そんな出産育児一時金についてお知らせしたいと思います。
1.出産育児一時金制度とは?
出産育児一時金制度とは、こどもを出産した時にかかる費用を、加入している公的医療保険から受け取れる制度のことをいいます。出産は病気や怪我に含まれていないため健康保険の適用外となり、出産育児一時金がない場合40万円〜50万円ほど患者様負担となります。
そこで出産費用軽減を目的として、公的医療保険(健康保険、国民健康保険、共済など)から出産時に支給されるのが出産育児一時金です。加入している医療保険はそれぞれ異なっていたとしても、法令により出産育児一時金を支給することが決まっているため、どの医療保険に加入していても支給を受けられます。
現在の支給額は、1児の場合42万円(双胎など多胎の場合はその人数分)となっています。
2. これまでの出産育児一時金の経緯
出産育児一時金は、平成5年に創設されて以降、数年おきに改定されています。時系列で、改定の内容をご案内させて頂きます。
〇平成5年 出産育児一時金を創設(支払金額30万円)
初めて出産育児一時金というものを支給すると、国が決定しました。それまではいわゆる出産育児一時金は「分娩費」を24万円、「育児手当金」が2,000円を支給するというものでしたが、これらをひとつにまとめ、30万円支給することとなりました。支給額の想定内訳は、「分娩介助料」26.4万円(平成5年平均額)、「出産前後の健診費用」2.7万円となりました。
〇平成12年 医療費保険制度改革をするも30万円のまま増額せず
この時点で平均分娩料が30万円、健診費用が3.6万円と出産育児一時金として全額負担できていないことは明確だったのですが、保険財政への影響を考慮し増額とはなりませんでした。
〇平成18年 出産育児一時金を35万円に増額
平均分娩料が34.6万円であることから、分娩料が35万円へと引き上げられました。
〇平成20年 後期高齢者医療制度の創設を行うにあたり仕組みの変更
後期高齢者医療制度の創設を行い、それに伴い全世帯が負担するのではなく75歳未満のみで負担をする制度に変更されました。
〇平成21年1月 出産育児一時金を一時的に38万円に増額
産科医療補償制度の創設に伴い、支給額に産科医療補償制度の掛け金3万円を上乗せして一時的に38万円に増額されました。
〇平成21年10月 出産育児一時金を一時的に42万円に増額
平均出産費用が39万円であることから、産科医療補償制度の3万円を加えて一時的に42万円に増額されました。またこの年に、出産育児一時金の直接支払い制度も開始となりました。
※直接支払い制度とは、健保保険組合から直接出産された医療機関に出産育児一時金を支払う制度です。医療機関への支払額は出産育児一時金を上回った金額のみとなり、多額の出産費用を用意しなくてよくなりました。
〇平成23年 出産育児一時金を永続的に42万円に増額
一時的ではなく、永続的に出産育児一時金が42万円とすることが決定されました。
〇平成27年 出産育児一時金42万円はそのままに本人負担を軽減(39万円→40.4万円)
産科医療補償制度の掛け金が3万円から1.6万円に引き下げられましたが、出産育児一時金の総額は変わらなかったため、その分本人負担軽減を目的と実質1.4万円の増額となりました。
〇令和4年1月 出産育児一時金42万円はそのままに本人負担を軽減(40.4万円→40.8万円)
産科医療補償制度の掛け金が1.6万円から1.2万円に引き下げられましたが、平成27年同様に出産育児一時金の総額は変わらなかったため、その分本人負担軽減を目的と実質0.4万円の増額となりました。
3.現在の出産育児一時金の対象者
出産育児一時金の対象者は、健康保険等(健康保険、国民健康保険、共済など)の被保険者とその被扶養者で、妊娠85日(妊娠4ヶ月)以後の生産(※)、早産、死産、流産、人工妊娠中絶の方が対象となっております。
そのため、妊娠4ヶ月以降であれば早産、死産、流産、人工妊娠中絶などの場合でも出産育児一時金を受け取ることが可能です。また出産方法も経膣分娩・帝王切開のいずれでも受け取ることができます。
※生産とは、「しょうさん」と読み、子を産むことを意味します。
4.現在の出産育児一時金の支給額
令和5年2月時点での出産育児一時金の支給額は、1児に対して42万円(本人支給分40.8万円+産科医療保証制度掛け金1.2万円)となっています。
ただし、産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合は、40.8万円、在胎週数22週未満の分娩の場合の支給額は40.8万円となっています。
5.出産育児一時金の支給方法
出産育児一時金の支給方法は、3通りあります。
<直接支払い制度>
直接支払い制度は、被保険者を介さずに医療機関が直接健康保険組合等に請求支払い手続きを行います。健康保険組合等から直接医療機関へ支払いを行なってもらえるため、健康保険組合への手続きなどが簡易的に済む方法です。
申請は、保険証を提示して医療機関が準備した直接支払い制度の書類に必要事項を明記するだけで申請手続きは完了します。
直接支払い制度は出産費用が42万円以下の場合、手出しで支払いをする必要がなく被保険者は現金を準備する負担が軽減するという点がメリットと言えます。現在、最も多く行われている支払方法がこちらです。
<受取代理制度>
受取代理制度は、本来被保険者が受け取るべき出産育児一時金を医療機関が代理で受け取り、出産費用を減額した分を被保険者が支払う方法です。つまり被保険者の代わりに医療機関が一時的に出産育児一時金を預かり、出産費用に充てるという仕組みです。
直接支払い制度と受取代理制度は似ていますが、小規模届出医療機関(診療所・助産所など)では受取代理制度のみの対応となっている場合があります。
申請は、被保険者は出産予定日の1ヶ月前までに保険者の事業所に受け取り代理用の出産育児一時金等支給申請書を提出する必要があります。
<償還払い制度>
出産費用を自己負担で全額支払った後に、健康保険組合等に手続きを行い還付を受ける方法です。出産に向けて事前にまとまった金額を準備しなくてはならない点に注意が必要です。
申請は、保険者指定の申請用紙・直接支払い制度等を利用していない旨の医療機関の同意書・出産費用の明細書を準備し、健康保険組合等と市役所に提出を行います。
*ワンポイントコメント*
どの支払い方法を選択しても出産費用が出産育児一時金より下回った場合は、差額を受け取ることができます。手続きの方法は医療機関もしくは加入する健康保険組合等に問い合わせてみましょう!!
6.今回の改正内容は?
これまでの出産育児一時金は、それぞれが加入する健康保険組合や国民健康組合から保険料が支給されていました。厚生労働省は、今後はすべての世代で子育てを支える方針として、75歳以上の後期高齢者からも一時金にかかる費用の一部を負担してもらう仕組みに変更していく予定です。
金額も現在の平均分娩費に合わせて42万円から50万円まで増額し、産科医療補償制度の掛け金変更による以外の増額としては平成21年(2009年)以来の14年ぶりの改訂となります。
今回の改定では、75歳以上の後期高齢者からも一定の財源(約7%)を出産育児一時金に当てる仕組みに変わる点が大きな変化だと言えます。少子高齢化が深刻な日本にとって、まずは一歩変革したというところでしょうか。
7.いつから増額になる?
これから詳細の発表があると思いますが、令和5年4月1日より施行予定になっています。
8.まとめ
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、日本の出生数は将来人口予定より7年も早く減少し、人口減少や少子高齢化が加速して、危機的状況であると感じています。
出産育児一時金増額に関しては、「出産に対しての保証はありがたいが後の育児の方が金銭的に大変なんだけどな、、、」という声も聞こえてきそうですが、これから妊娠出産を控えている妊産婦さんにとっては国として補償の充実を図った良いニュースだと思っています。
岸田首相は、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と表明されていますので、今後も出産、子育てがしやすくなる取組が図られることが期待されます!